畑のない街で、ワインを造る——東京の都市型ワイナリー
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畑のない街で、ワインを造る——東京の都市型ワイナリー

まちかど編集部 2026.09.29 編集方針・運営情報

ワイナリーと聞いて思い浮かべるのは、たいてい丘の斜面に広がるぶどう畑と、その脇に建つ大きな醸造所だろう。

だが東京には、畑を持たないワイナリーがある。練馬の住宅街に、清澄白河の元町工場に、御徒町の路地に、そして渋谷の商業施設の3階に。産地からぶどうを運び、人の多い街で醸す。都市型ワイナリー、あるいはアーバンワイナリーと呼ばれる造り方だ。

畑がないのに、なぜ街で造るのか。その答えのほうが、実は飲み手にとって面白い。

なぜ、街で造るのか

ワイン造りは、ぶどうを潰して発酵させるところから始まる。畑と醸造所が近いほど、収穫したぶどうを傷めずに運べる。これが産地にワイナリーがある理由だ。

都市型ワイナリーは、この前提をひっくり返す。ぶどうを冷蔵で運べるようになった以上、醸造所は消費地にあってもいい。そう考えると、街に置くメリットのほうが大きくなる。

飲む人が、造っている場所に歩いて行ける。造り手が、自分のワインが飲まれている場面をその日のうちに見られる。畑のそばでは決して起きないことが、街では日常になる。

江東区は、区の公式サイトで管内の都市型ワイナリーを紹介し、今後この地区に増える可能性にも触れている。行政が街の資源として数えはじめている、という点でも、これは一過性の流行ではない。

東京の醸造所——五つの現場

東京ワイナリー(練馬区・大泉学園)

2014年開業。東京23区でもっとも農地面積が広い練馬に生まれた、都内初のワイナリーだ。東京の農業をもっと元気にしたいという動機から始まっている。大泉学園駅から歩いて10分弱、住宅地のただ中にある。

産地に造りに行くのではなく、農のある街に醸造所を置いた。都市型ワイナリーの中でも、いちばん「畑側」に軸足のある一軒といえる。

清澄白河フジマル醸造所(江東区・三好)

2015年開業。かつて町工場だった建物の1階を醸造所に、2階をレストランとテイスティングルームにしている。看板は控えめで、知らなければ通り過ぎる低層ビルだ。

原料は山形、山梨、茨城、千葉の農家から届く。レストランかテイスティングルームを利用すると、1階の醸造所を見学できる。天井には工場時代のクレーンが残っている。

美術館とカフェとギャラリーの街になった清澄白河で、建物だけが前の時代の姿のまま使われている。この土地の重なり方が、この一軒のいちばんの見どころだと思う。

深川ワイナリー東京(江東区・古石場)

門前仲町から徒歩6分、越中島から徒歩5分。ここはワイン造りの体験ができる。飲む側が仕込みの側に回れる場所は、都内では貴重だ。

下町の生活圏の中に醸造所があるので、買い物のついでに寄る人がいる。それが成立するのが都市型ワイナリーの強みでもある。

BookRoad 〜葡蔵人〜(台東区・台東)

御徒町から歩ける、下町の小さなワイナリー。ぶどうと人がつながって幸せになってほしい、という願いから葡蔵人と名付けたという。自社農園や契約農家から原料を運び、Made in Tokyo のワインを造っている。

国産ぶどうにこだわり、日々の生活に寄り添うワインを目指すという立ち位置は、名前のつけ方とそのまま一致している。

渋谷ワイナリー東京(渋谷区・神宮前)

MIYASHITA PARK North の3階。深川ワイナリーを手がけた運営会社による一軒で、渋谷駅から歩いて5分ほどの場所で、目の前でぶどうが発酵している。

面白いのは原料の集め方だ。国内のぶどうに加えて、オーストラリアやニュージーランドなど季節が逆の国からも取り寄せる。北半球の秋だけが仕込みの季節ではなくなり、一年を通して新しいワインが出てくる。都市の物流の上に立っているからできることだ。

タップから注がれるできたてのワインを、併設のビストロで飲める。20代の客も多いという。

都市型ワイナリーの、どこが面白いのか

五軒を並べると、共通していることがいくつか見えてくる。

第一に、建物が転用されていること。町工場、住宅地の一角、商業施設の3階。ワイナリーのために建てられた建物はひとつもない。街に元からあった器に、あとから醸造所が入っている。

第二に、造っている場所で飲めること。産地のワイナリーでも試飲はできるが、街の醸造所は「仕事帰りに一杯」の距離にある。日常の側にワイン造りが置かれている。

第三に、規模が小さいぶん、造りが自由なこと。デラウェアやナイアガラ、アジロンといった日本の生食用ぶどうを使ったワインが多いのも、小さな仕込みだからできることだ。これらはヨーロッパ品種とは香りの方向がまったく違う。日本ワインを飲みはじめるなら、このあたりから入るほうが面白い。

第四に、産地との関係が見えること。どの一軒も、どこの誰のぶどうかを前に出している。畑を持たないからこそ、原料の来歴を語らざるをえない。結果として、飲み手は山形や山梨の農家の名前を知ることになる。

訪ねるときに気をつけたいこと

醸造所は、店であると同時に工場でもある。

秋の仕込みの時期は、いちばん忙しい。ぶどうが届き、選果し、仕込む。見学を受け付けていない期間もある。逆にいえば、この時期に入れれば、いちばん生きた現場を見られる。

見学の可否は施設によって違う。清澄白河フジマル醸造所のようにレストラン利用が条件のところもあれば、体験プログラムを組んでいるところもある。行く前に、その日にやっていることを確認しておきたい。

営業日も一般的な飲食店とは違う。清澄白河フジマル醸造所は月曜と火曜が休みで、月曜が祝日の場合は営業して翌火曜と水曜が休みになる。醸造の都合が営業に出る、という点は覚えておくといい。

よくある質問

都市型ワイナリーのワインは、産地のワインと味が違いますか

産地かどうかより、造り手の規模と考え方の差のほうが大きく出ます。都内の醸造所は小規模なところが多く、デラウェアやナイアガラなど日本の生食用品種を使った、軽やかで果実味のはっきりしたワインが目立ちます。

ワインに詳しくなくても行けますか

行けます。レストランやビストロを併設している醸造所が多く、食事のついでに飲む形で入れます。造っている人に直接聞ける距離なのが、都市型のいちばんの利点です。

見学はできますか

施設によります。レストランの利用を条件に見学できるところ、体験プログラムを設けているところ、仕込み期は受け付けないところがあります。事前に公式サイトかSNSで確認してください。

東京で造られたワインは買えますか

醸造所の店頭で購入できるところが多く、オンラインで販売している醸造所もあります。量り売りを行う日を設けているところもあります。

なぜ東京にワイナリーが増えたのですか

ぶどうを産地から運べるようになったこと、小規模な設備で始められるようになったこと、そして飲み手との距離の近さが価値になったことが重なっています。造る場所と飲む場所が同じ街にある、という構造そのものが商品の一部になっています。


※営業日・見学の可否・取り扱いは変更されることがあります。訪問前に各醸造所の公式サイトやSNSで最新の情報をご確認ください。本記事の施設情報は、江東区の公式サイトおよび各醸造所の公開情報に基づいています。

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